2025
11.24

マルティニーク(その2):マルティニークのラム酒の歴史!トラファルガーの海戦の後、ナポレオンの大陸封鎖令が生んだアグリコールラムとは!?

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マルティニークのラム酒は、奴隷制度と砂糖産業の歴史に深く結びつきながら、19世紀末に独自の「アグリコールラム」文化を確立し、現在では世界で唯一AOC認定を受けたラムとして知られています。

さて、今回のブログではマルティニークにおけるラム酒の歴史について見ていこうと思います。

ラム酒生産の始まり

ラムの原料となるサトウキビは、1493年コロンブスの2回目の航海による到来とともにカナリア諸島からアメリカ大陸に持ち込まれ、マルティニークでも栽培が始まりました。

マルティニークを含むカリブ海の島々は、はじめスペイン勢力圏にあったものの海賊の出現とともに弱体化、これに変わってイギリスやフランスがカリブ海の島々をつぎつぎと占領します。彼らは島々を一面のサトウキビ畑へと変えていったのでした。

17~18世紀にはサトウキビプランテーションの労働力として、アフリカから奴隷が連れてこられます。

いわゆる悪名高い大西洋三角貿易といわれる奴隷貿易です。この貿易で蓄積された資本が後の産業革命の資金となりました。

さて、三角貿易とは3つの国や地域が関係する貿易構造のことを言います。

大西洋三角貿易では、イギリスなどの西ヨーロッパ諸国が武器などをアフリカに運び、アフリカから奴隷をアメリカ大陸へ輸出、アメリカ大陸からは砂糖や綿花などをヨーロッパに運んでいました。

図.1 大西洋三角貿易(ウィキペディア 三角貿易より)

ラム酒は砂糖産業の副産物として誕生したのです。

ラム酒にはインダストリアル製法とアグリコール製法の二つの製法があります。

インダストリアル製法はより一般的な製法であり、サトウキビの絞り汁を煮詰めてできる砂糖の結晶を取り除いたあとの糖蜜が原料となります。

この糖蜜のことをモラセスと呼びますが、貯蔵が可能で通年で製造が可能です。

マルティニークでもはじめ砂糖製造の副産物であるモラセスを利用してラム酒が作られました。

誕生当時のラム酒は香りや味がとげとげしいものでしたが、1693年フランス本土からマルティニークに渡ってきたフランス人修道僧のペール・ラバがコニャックの技法を取り入れたことにより品質が大きく向上します。

砂糖と共に一級の貿易品として取引される様になったのです。

アグリコールラムの誕生

19世紀になり、寒冷地で栽培できる甜菜(ビーツ)から作った砂糖が実用化されます。

1805年トラファルガーの海戦でイギリスがフランス・スペインの連合軍に勝利し海上権を手に入れると、これに対抗しフランスのナポレオンは海外植民地とヨーロッパの連絡を遮断するよう1806年に大陸封鎖令を布告、マルティニークなどで生産される砂糖は大陸に渡らなくなります。

The Battle of Trafalgar, as Seen from the Mizen Starboard Shrouds of the Victory 1806-8 Joseph Mallord William Turner 1775-1851 Accepted by the nation as part of the Turner Bequest 1856 http://www.tate.org.uk/art/work/N00480

図2. ターナー画、トラファルガーの海戦

フランス本国ではサトウキビ糖の代替えとして甜菜糖が普及、大陸封鎖令の解除後も甜菜糖生産者たちがサトウキビ糖に重税をかけたため、植民地の製糖業者はサトウキビ糖を輸出することができず、相次いで倒産していきます。カリブ海の製糖工場は砂糖生産だけでは生き残れなくなったのです。

また、ラムは砂糖の製造上の副産物である糖蜜からできるのですから、サトウキビが生産できなくなると糖蜜も得られないという状況になりました。これを打開するためにサトウキビジュースを直接発酵・蒸留するアグリコールラムが生まれます。

もう一つのラム酒の製法、アグリコール製法の誕生です。

マルティニークでも19世紀末には製糖工場はサトウキビジュースを直接発酵・蒸留するアグリコールラムの製造へと転換していきました。

売れなくなったサトウキビをそのまままるごとラム酒製造に利用したわけですね。

ところがこの製法、サトウキビの収穫後すぐに製造工程がはじまるため、栽培地の近くでなければ製造できません。

生産コストのかかる贅沢な製法ですが、その希少性や原料由来の個性的で豊かな風味により国際的な酒類品評会でも高い評価を受けています。

AOC認定とは

1996年、マルティニークのアグリコールラムはフランスの海外県で初めてAOCを取得しました。現在、マルティニークで製造し、一定の製造基準を満たしたアグリコールラムの生産者はフランスの法律によりAOCの称号を受けることができます。

AOC(Appellation d’Origine Contrôlée アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ;原産地統制呼称)は、フランスの農業製品に対して与えられる認証であり、特定の条件を満たしたもののみに付与される品質保証です。

<参照>

・RUM,Internet Bar Page WEB-BAR https://web-barman.net/whiskey/rum.html

・CMPARI JAPAN株式会社 国際コンペティションで高い評価を得るフランス マルティニーク島産ラム「トロワリビエール」を発売,PRTIMES https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000039.000058608.html

・ラムの歴史,日本ラム協会 http://rum-japan.jp/aboutrum/history.html

・リカル編集部,アグリコールラムとは何か,LIQUL https://liqul.com/entry/2071

・フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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