12.07
国勢調査を日本とフランスで比較!フランス方式のローリング・センサスとは?
前回まで2回にわたってフランスの海外県マルティニークを紹介してきました。
マルティニークの人口センサスについて解説しようと準備を進めていたところ、マルティニークもその対象となるフランスの人口センサスが、「ローリング・センサス」という方式を採用していることがわかりました。
今回は、マルティニークからちょっと離れて、このローリング・センサスについて、調べてみることにしました。
ローリング・センサスとはどのようなものか
フランスの人口センサス(全国一斉調査)はナポレオン時代の1801年に始まり、当初は5年ごとに実施されていました。
しかし第二次世界大戦後は財政上の問題から不定期となり、従来型の調査は1999年が最後となりました。
その後、コスト削減や地方分権の進展に伴い効率化の必要性が高まり、2002年に新方式が法定化、最後の全国一斉調査から5年後の2004年よりローリング・センサス方式へ移行しました。
ローリング・センサスはフランス国立統計経済研究所(INSEE)が実施し、その調査方法は以下の通りとなっています。
・人口1万人以上のコミューン(大コミューン)について、毎年8%、5年間で全世帯のおよそ40%を調査し、推計により全体を把握します。
・人口1万人未満のコミューン(小コミューン)について、5年ごとに悉皆調査(全数調査)を実施、5年間で全ての地域の小コミューンが調査されます。
・調査時期は毎年1月~2月にかけてのおよそ1ヶ月、1月1日時点における人口等を調査します。
ローリング・センサスの特徴とメリット
ローリング・センサスの特徴及びメリットについては、以下のものがあげられます。
【最新の人口動態を迅速に反映】
毎年人口統計値を更新することが可能です。従来の10年ごとの調査に比べて最新の人口動態を迅速に反映することができます。
【予算の平準化】
一度に巨額の費用をかけず、毎年費用を分散して実施できます。
【地方自治体の役割強化】
フランスの地方自治体、コミューンが調査実施に関与し、地方の統計活動が活性化します。
日本での導入の議論
日本においてもローリング・センサス方式の導入可能性について検討されたことがありますが採用されませんでした。
理由は選挙区割りや地方交付税の算定など、国勢調査の結果を全国一斉・同一時点で得る必要があったためです。
また、ローリング・センサス方式では推計を伴うため、全国一斉調査に比べて瞬間的な全数把握が難しい、統計法や関連法令が国勢調査=全数調査と規定しており、法改正が必要になるなどの課題もありました。
現在の方向性としては、ローリング・センサス方式の代わりとして、インターネット解答の促進や郵送配布、集合住宅での管理会社の協力による効率化、コールセンターや外部委託の活用による調査員事務の軽減など、改善策が進められています。
フランス方式(ローリング・センサス)と日本方式の比較を下表にまとめました。
| 項目 | フランス方式(ローリング・センサス) | 日本方式(国勢調査) |
| 実施開始 | 2004年(1801年から行われてきた一斉調査から移行) | 1920年から継続、5年ごとに実施 |
| 実施主体 | INSEE(フランス国立統計経済研究所) | 総務省統計局 |
| 調査方法 | ・人口1万人以上のコミューン:毎年一部世帯を抽出調査(5年で全体をカバー) ・人口1万人未満のコミューン:5年ごとに悉皆(全数)調査。5年間で全対象コミューンを網羅。 |
全国一斉調査(全数調査)を5年ごとに実施 |
| 調査周期 | 毎年(部分調査)、5年で全国網羅。中間年の推計人口を、5年間の調査後に基準人口(populations de référence、2021年以前は法定人口)として公表。 | 5年ごとに全国一斉 |
| 調査対象時期 | 毎年1月1日現在 | 西暦の末尾が「0」と「5」の年の10月1日現在 |
| メリット | ・毎年人口統計値を更新可能 ・かかる費用を分散できる ・コミューン(地方自治体)の役割強化 |
・全国同一時点での人口を把握可能 ・選挙区割りや交付税算定に適合 |
| デメリット | ・全国同一時点での人口把握が難しい ・推計を伴うため精度に課題 |
・調査員確保や調査負担が大きい ・最新人口を毎年更新できない |
| 日本での導入可能性 | 検討されたが、全国一斉性が必要なため不採用 | 現行方式を維持しつつ効率化(ネット回答・郵送配布など) |
フランスでの導入に問題とならなかった理由
ところで、なぜフランスでローリング・センサス方式の導入が進んだのでしょうか。
フランスでローリング・センサス方式の導入が問題とならなかった理由をまとめました。
1.人口統計の利用目的の違い
・フランスでは、人口センサスの結果が選挙区割りや交付税算定に直接使われる度合いが日本に比べ低い。(他の統計や行政データも利用している)
2.推計を受け入れる文化
INSEEは労働力調査、家系調査などでも抽出調査を行っており、推計値を公的統計として広く利用している。このため、全数調査でなくとも十分という社会的合意が形成されやすかった。
3.地方分権の進展
コミューン(基礎自治体)が調査実施に関与し、地域全体で調査を進める仕組みが整っていた。また、小規模コミューンは5年ごとに悉皆調査を行うため地域の公平性も一定程度担保されている。
4.制度設計の柔軟性
・フランスでは人口統計の更新を毎年少しずつ行うことを重視した。その結果、政策立案や行政計画に必要な最新の人口動向を毎年反映できることがメリットとして評価された。
<参照>
・諸外国のセンサスの状況,総務省統計局 https://www.stat.go.jp/info/kenkyu/kokusei/pdf/fcensus2.pdf
・西村 善博,フランスのローリング・センサスにおける統計作業について,中央大学学術リポジトリ https://chuo-u.repo.nii.ac.jp/
・西村 善博,フランス新人口センサスにおける推計の現段階,法政大学https://www.hosei.ac.jp/toukei_data/shuppan/g_shoho36_nishimura.pdf
・統計調査手法の見直しに向けて,総務省 https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc_wg/r6/pdf/20240419__shiryou_1_2.pdf
・令和7年国勢調査の実施に向けた検討課題,総務省統計局 https://www.stat.go.jp/info/kenkyu/kokusei/yusiki07/pdf/01sy0301.pdf
・国勢調査について,参議院法制局 https://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column099.htm
・国勢調査審査メモ,総務省 https://www.soumu.go.jp/main_content/000967955.pdf
・Population census,INSEE(フランス国立統計経済研究所) Population census | Insee


