02.14
新宮市は古代から「新宮」だった!世界遺産、熊野古道は新宮=熊野速玉大社へと続く。
紀伊半島の南東部に位置する和歌山県新宮市は、熊野川河口部に位置し、熊野本宮大社、熊野那智大社とともに熊野三山のひとつである熊野速玉大社の鳥居前町として栄えてきた街です。
明治初期にはすでに人口9,134人、戸数2,393戸の市街地を形成していました。
平成27年(2015年)10月1日の国勢調査によると人口は29,331人、熊野川右岸河口部に熊野速玉大社を中心に人口16,311人の人口集中地区を形成しています。
新宮市
熊野速玉大社
熊野速玉大社は、熊野古道の伊勢路の経由地、中辺路の終点でもあります。
なかでも田辺市から紀伊山地に分け入り、熊野本宮大社、熊野那智大社を経由し、熊野速玉大社に至る中辺路は、平安時代から鎌倉時代にかけて、上皇や貴族たちが熊野三山を目指した『熊野御幸』で公式参詣道として使われるなど、古来人気の高い道であり、古くは後鳥羽院・藤原定家・和泉式部も歩いたとされています。
そんな新宮市ですが、なぜ新宮と呼ばれているかご存じですか。
新宮市の地名の由来
熊野速玉神社の俗称が新宮であることに因むと言われていますが、では、熊野速玉神社の俗称はなぜ新宮なのでしょうか。
「新宮」とは、もともとある古い神社に対し、新しく建立された神社のことを言います。
では、新宮市にあるもともとの古い神社とは何でしょう。
新宮市にはもうひとつ、熊野三山の祭神、熊野権現注にゆかりのある神社があります。
その名は、神倉神社。新宮市市街地の西の端、権現山(神倉山)の中腹の天ノ磐盾(あまのいわたて)という険しい崖の上にあります。
この神社のゴトビキ岩に熊野速玉大神(伊邪那岐神)、熊野夫須美大神(伊邪那美神)が降臨したとされます。
元宮 神倉神社とゴトビキ岩
景行天皇58年(西暦128年頃)、熊野権現を勧進するために新しい社殿、熊野速玉神社を造営したと伝えられています。日本では、もはや神話の時代といって良い時代でしょう。
神倉神社は現在、元宮と呼ばれています。
古代にあっても、新宮はやはり「新宮」だったのです。
新宮市の飛び地
さて、新宮市には飛び地があります。
和歌山県自体が飛び地の多い県で、新宮市飛び地のさらに北東部、三重県、奈良県を挟んで東牟婁(ひがしむろ)郡北山村も1か村がまるまる飛び地となっています。
新宮市の飛び地の話に戻りましょう。
飛び地は、住所では新宮市熊野川町玉置口および新宮市熊野川町嶋津にあたります。
二つの地区は、熊野川の上流域に位置し、奈良県と三重県に囲まれています。
その面積と人口は、2015年の国勢調査結果によると、双方を併せて10.41km2、31人、人口密度を求めると3.0人/km2です。
新宮市の飛び地、熊野川町玉置口(上)と熊野川町嶋津(下)
この飛び地形成の歴史は、同じく飛び地である北山村と同様に、江戸時代にさかのぼると言います。
江戸時代の藩領は数多くの飛び地によって形成されていました。
また、これらの飛び地地域は、古来森林地域としての経済価値が高く、伐採された木材は、熊野川支流の北山川を筏によって新宮まで運ばれたそうです。
経済的なつながりは、奈良県や三重県よりもむしろ新宮を抱える和歌山県と強かったと言えます。
明治期に入っても河川を唯一の交流経路として利用していたことに変わりはありませんでした。
このため、飛び地は現代まで残る結果となったようです。
新宮市熊野川町嶋津の山頂より湾曲した北山川を望む、正面の集落は三重県熊野市紀和町木津呂
注:熊野権現 熊野三山にまつられる神であり、主祭神である家津美御子(けつみみこ、スサノオ)、速玉(イザナギ)、牟須美(イザナギ)のみを指して熊野三所権現ともいう。神仏習合思想のひとつ、本地垂迹(ほんじすいじゃく)思想(神道の八百万の神々は、実は様々な仏が化身として日本に現れた権現であるという思想)のもと、権現と呼ばれるようになった。
<参照>
・フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
・田辺市熊野ツーリズムビューロー https://www.tb-kumano.jp/kumano-kodo/nakahechi/
・熊野古道 新宮市観光協会 https://www.shinguu.jp/kumanokodo2
・熊野速玉大社 新宮市観光協会 https://www.shinguu.jp/spots/detail/A0001
・神倉神社 新宮市観光協会 https://www.shinguu.jp/spots/detail/A0002
・宮地忠明,和歌山県東牟婁郡の飛び地形成について,学芸地理(25):21-36,東京学芸大学地理学会 https://core.ac.uk/download/pdf/15924773.pdf
・明治前期地誌資料 日本地誌提要第4巻,内務省地理局編纂善本叢書7,ゆまに書房
・政府の総合統計窓口 https://www.e-stat.go.jp/