2021
11.04

ジェノヴァのクロスボウ兵の誕生、ピサ、ヴェネチアに勝利し、地中海世界の頂点へ!そしてジェノヴァで開催のパガニーニ国際ヴァイオリン・コンクール、審査結果は?

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10月24日、ジェノヴァで開かれていた第56回パガニーニ国際ヴァイオリン・コンクールは、地元イタリアのジュゼッペ・ギボーニ(Giuseppe Gibboni)さん(20歳)の優勝で幕を閉じました。2位には、アジア勢から韓国のチョン・ヌーリエさん(16歳)、3位にはドイツのララ・ボッシュコウさん(22歳)が入賞しました。

日本から参加の宇野由樹子さん(25歳)、吉本梨乃さん(18歳)はセミファイナルまで残ったものの、惜しくもファイナル進出を逃しました。

2位に入ったチョン・ヌーリエさんはもちろんですが、セミファイナルには15名中、日本人を含む東アジア勢が6名残るなど、アジア勢の活躍が目立ちます。

次の第57回コンクールはいつになるのでしょうか。待ち遠しいですね。

YouTubeにファイナルの動画がありましたので、貼り付けておきます。

さて、ジェノヴァの歴史の2回目、ジェノヴァの記事としては3回目になります。

今回は、地中海を席巻したジェノヴァのクロスボウ兵に焦点を当ててみたいと思います。

ジェノヴァのクロスボウ兵の誕生

語れば奥の深いジェノヴァの歴史、もちろん地中海に限らず、その影響は世界中に及びます。

ジェノヴァは海洋貿易で栄えた都市国家ですが、ジェノヴァの持つ軍事力も有名でした。

クロスボウ兵です。

彼らは、ジェノヴァ共和国を守るため、またはイタリアやヨーロッパのイギリスやフランスなどの大国のために傭兵として活躍しました。

クロスボウで武装し、陸戦、海戦の双方で活躍しました。

ところで、クロスボウとはどんな武器かご存じですか。

台座に弓が固定されていて、あらかじめ弦を引いてセットしたものに矢を設置し、引き金を引くことで矢が発射されるようにしたものです。

クロスボウ(右上)とその矢(下)・巻き上げ器(左) ビクトリア&アルバート博物館所蔵

クロスボウの誕生によって、ほぼ素人でも強力な弓兵になることができるようになったのです。だからといって、素人がクロスボウを握ったわけではありません。ジェノヴァの精鋭たちがクロスボウを手にしたのです。

また、クロスボウを手にするにはお金がかかります。貿易で財を成す商人の国ジェノヴァだからこそ、クロスボウ兵を訓練することができたのかもしれません。

ジェノヴァのクロスボウ兵は、ジェノヴァで訓練され、組織されましたが、兵員はリグリア地方の他の地域や北イタリアの周辺諸地域、遠くはコルシカ島から来る者もあったそうです。

そして、ジェノヴァのクロスボウ兵の活躍には、ジェノヴァの海洋政策も起因したようです。

ジェノヴァはガレー船(人力でオールを漕いで進む軍艦)に対して一定のクロスボウ兵を乗船させることを義務づけていたのです。

Galley-knightshospitaller

16世紀におけるマルタの典型的な構造を持つガレー船の模型(ウィキペディア ガレー船より)

ジェノヴァが地中海で最強の海洋国家となったのは、このようなクロスボウ兵があったからこそなのかもしれません。

ジェノヴァの頂点

ジェノヴァが政治的な頂点を迎えることになった有名な戦いが二つあります。

一つはピサに勝利した1284年のメロリアの海戦です。

この海戦によりピサはこれ以降衰退の一途をたどることになります。

もう一つはライバルであったヴェネツィアに勝利した1298年のクルゾラの海戦です。

ところで、この海戦ではマルコ・ポーロがヴェネチア側のガレー船艦長の指揮顧問官となり、敗れてジェノヴァの獄につながれました。このとき、同室の囚人であったピサの物語作者ルスチケロに旅行内容を後述したのが、東方見聞録です。

マルコ・ポーロの肖像が描かれた旧1000リレ紙幣(イタリアの通貨)(ウィキペディア マルコポーロより)

ともあれ、二つの戦いによりジェノヴァは二つのライバルに勝利し、地中海海洋国家の頂点に立ちました。

このときがジェノヴァにとって、繁栄の頂点と言ってよいでしょう。

また、これら二つの戦いの勝利、そしてジェノヴァの繁栄はクロスボウ兵の活躍があってこそ、だったとも言えるでしょう。

ジェノヴァとイングランドの国旗

ジェノヴァ共和国の国旗は白地に赤の十字、現在でもジェノヴァの市旗として用いられています。

この旗は聖ジョージ・クロスと呼ばれるもので、イタリアの諸都市で採用されているメジャーなものでもあります。

聖ジョージクロス

ところで、これと同じ聖ジョージクロスを国旗として使用している国があります。

それはイングランドです。

イングランドが聖ジョージクロスを国旗にした経緯は、当時のジェノヴァの海軍力に起因しているといいます。

中世の地中海は海賊が横行する大変危険な海でもありました。

そのような地中海において、特にイタリア半島以西の西地中海や黒海ではジェノヴァの海軍力が非常に行き届いていました。

これに目をつけ、商戦への海賊被害を防ごうと考えたのがイングランドの商人たちでした。

イングランド王国は1190年、正式にジェノヴァ共和国にこの旗の使用の承諾を請い、毎年一定の使用料を支払う約束をしたのです。

そうです。この旗を掲げることによってジェノヴァ海軍に保護されていることを海賊船たちにアピールしたのです。

ところで、2018年にジェノヴァ市長が250年間、旗の使用料がジェノヴァ市に支払われていないことについて、返済するようイギリスの女王陛下に書簡を送ろうと考えたとか。

半分冗談だったようですが、ジェノヴァ共和国の海軍力を垣間見ることができたエピソードでした。

<参照>

・フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

・パガニーニ国際コンクールの栄冠は24年ぶりにイタリア人のもとへ,MCS Young Artists https://mcsya.org/gibboni-wins-paganini-2021/

・ジェノヴァ発 〓 第56回「パガニーニ国際ヴァイオリン・コンクール」でイタリアのジュゼッペ・ギボーニが優勝,月刊音楽祭 https://m-festival.biz/24232

・世界各地の最強のウォーリアーズ。歴史上目覚ましい戦果を挙げた10の戦士たち,カラパイア不思議と謎の大冒険 https://karapaia.com/archives/52224764.html

・ポーロ,世界大百科事典第2版,平凡社

・ジェノバとイングランドの間に”国旗使用料”未払い問題が浮上!?,地球の歩き方 https://tokuhain.arukikata.co.jp/genova/2018/07/post_8.html

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