2023
05.07

インドの人口、とうとう中国を追い抜く!人口ボーナスは・・。そして、人材ボーナスとは!?

ブログ

2023年4月19日、国連人口基金(UNFPA)が、今年半ばにはインドの人口が中国の人口を290万人上回り世界一になる、との推計を発表したと、報道各社が伝えました。

国連人口基金は、世界人口白書2023を同日に公開しており、これと同時にニュースを発表したものです。

さて、今回のブログでは、このニュースを深掘りしてみたいと思います。

インドと中国の人口にまつわるニュースとその解釈

世界人口白書2023に記載されている人口は、昨年2022年7月に公開された世界人口の見通し(World Population Prospects 2022)の2023年7月1日現在の将来推計人口です。

そこで、この将来推計人口をベースに中国とインドの人口の変化を見ていきましょう。

中国では、すでに人口減少がはじまっているとの報道が今年(2023年)1月に流れました。

中国とインドの推計人口、および将来推計人口を見てみると、折れ線グラフはちょうど2023年に交差し、その後も二つの国の人口は差を広げ、2100年にはインドは中国のおよそ2倍の人口を擁する国となることが予想されています。

図1.インドと中国の人口

人口の変化だけを追うと、中国が人口トップの時代が終わり、インドの存在感が増すだろうと言われています。

さて、これに対し中国は、人口ボーナスはまだ続いており、人口の高齢化に積極的に対処する国家戦略を実施している。さらには人材ボーナスが形作られつつあり、発展の原動力は依然として力強いとコメントしています。(人民網日本語版より一部引用)

これは、どういうことでしょうか。

人口ボーナス

ニュース記事の中で、たびたび人口ボーナスという言葉がでてきます。

人口ボーナスとは、15歳以上65歳未満(日本の場合)の生産年齢人口の増加率が総人口の増加率を上回り、総人口に対する労働力人口が豊富になることにより、経済成長が促進されることを言います。

人口ボーナスの定義には、以下の3つの考え方があります。

1.生産年齢人口が継続して増え、従属人口(15歳未満、65歳以上の人口、いわゆる総人口の内、生産年齢を除く人口)の比率の低下が続く期間

2.従属人口比率が低下(一方で生産年齢人口の比率は増加する)し、かつ生産年齢人口が従属人口の2倍以上となる期間

3.生産年齢人口が従属人口の2倍以上(生産年齢人口/従属人口>2.0)の期間

では、以上の定義の内、容易に求められる3の定義を当てはめて、インドと中国の人口ボーナスを見てみましょう。

   図2.インドと中国の生産年齢人口/従属人口と人口ボーナス

インドにおける生産年齢人口の従属人口に対する比率(生産年齢人口/従属人口、以下、ここでは生産年齢人口比率とします。)は、1965年を境に下降から上昇に転じ、2019年になってやっと人口ボーナス期に入ります。

現在(2023年)は、人口ボーナス期に入って間もない時期と言えるでしょう。

ピークは2032年、そして2051年まで人口ボーナス期が続くと予想されます。

一方、中国ではインドとほぼ同じ時期の1966年を境として下降から上昇に転じ、生産年齢人口比率も1977年まではほぼ同じ値で推移していますが、1978年以降その値は急激な伸びを見せます。

インドに23年先んじて、1996年に人口ボーナス期を迎えると2009年にピークに達し生産年齢人口比率は下降に転じます。

そして2023年、人口ボーナス期のまま一旦生産年齢比率は底を打ち、再び上昇に転ずるのです。

2027年に二つ目のピークを迎えた後、インドを下回るのは2030年と見込まれ、人口ボーナス期の終焉も2034年と予想されています。

つまり、人口をインドに抜かれたものの、生産年齢比率がインドを上回る時期はまだまだ続くと予想されるのです。

人材ボーナスとは?

中国のニュースでは、記者からの質問に対して「人材ボーナス」という言葉が出てきました。

人材ボーナスとは、一体何を意味するのでしょうか。

人材ボーナスをネット検索しても、中国の記事しかでてきません。

ニュースの内容からその意味について考えてみると、教育環境を整備したことにより就学年数が延び、優秀な人材が増えたことが、人口ボーナスに影響するものと理解できます。

ウィキペディアを検索すると、これに相応する言葉として教育ボーナスという言葉が出てきます。

これは、いわゆるEducation-triggered Dividend(教育起因のボーナス)のことで、その内容から人材ボーナスに等しいものと解釈できますが、正式に日本語に翻訳された言葉はまだないように見受けられます。

また、2013年の「Demography」誌に投稿されたCuaresma氏らの論文によると、教育が人口ボーナスの主要因であることは明らかなようです。

つまり、人材ボーナスは人口ボーナスを促進させる主たる要因であると言えそうです。

図2.に見るように、生産年齢人口/従属人口の経過は、インドの一つ山型に対し、中国では二つ山型を形成しており、中国では、あらかじめ予想して政策を打った結果がこのような経過図となったように見えます。

まさしくニュースでの発言は、これを裏付けるものと言えるでしょう。そして、すでに人材ボーナス期を継続させるような政策が打たれ、その効果が見えてきているのかもしれません。

高齢化社会にあっても人材ボーナスはまだまだ豊富

今回、インドが中国の人口を抜くというニュースの発信に先立って公開された世界人口白書2023には、「女性が自分の身体と人生について選択する力を得ることで、女性とその家族が成長し、社会も成長する」と記述されていました。

そして、「中国網日本語版」2022年5月20日によると、南開大学経済学院人口・発展研究所教授、中国人口学会副会長の原新氏は、「量的な人口ボーナスをより長期的な品質型の人口ボーナスに切り替えると同時に、高齢者と女性のボーナスを十分に発掘・開発する必要がある」と述べています。

つまり、世界人口白書2023で呼びかけられた「女性」、およびそれに加えて「高齢者」が、「教育」によって「人材ボーナス」となり、中国はまだまだ発展すると解釈できるのです。

最後に

今回、人口ボーナス、人材ボーナスという比較的新しい言葉を取り上げてみました。「インドが中国の人口を抜く」、というニュースがあってこそ話題に上ってきた言葉です。

また、人材ボーナスを構成する「女性」の成長について、事前に公開された世界人口白書2023で大きく項が割かれていたことは、とても興味深く感じました。

高齢化で先を行くヨーロッパにおいては、EUにおける人口動態注1の変化に照らし、税金や公的サービスなどの過去を明らかにし、未来予測することを目的として「AGENTA PROJECT」が立ち上がり、情報発信されています。

超高齢社会注2を迎えた我が国にあっても、人口動態の現状や高齢化社会に対応した政策、諸外国の事例が容易に把握、理解できるような情報発信がなされることは、とても重要なことだと思います。

本ブログでも、高齢化や人口ボーナス、人材ボーナスに関する話題を今後も取り上げていきます。

注1 人口動態:ある地域における一定期間内の人口変動の状態。出生、死亡や流入、流出によって人口は絶えず変動している。

注2 超高齢社会:65歳以上の人口の割合が総人口の21%以上を占める社会

<参照>

・産経新聞,インド、今年人口世界一に 14億人超、中国抜く,https://www.sankei.com/article/20230103-CEICQ6X6FJIKJMEABS2OXE2DFE/

・読売新聞オンライン,インドの人口、今年半ばに中国を上回り世界一に…国連機関推計で14億2860万人 https://www.yomiuri.co.jp/world/20230419-OYT1T50183/

・国連人口基金 駐日事務所,世界人口白書2023 https://tokyo.unfpa.org/ja/SWOP

・国連人口基金 https://www.unfpa.org/

・「人民網日本語版」2023年4月20日 http://j.people.com.cn/n3/2023/0420/c94474-20008635.html

・AGENTA http://www.agenta-project.eu/en/index.htm

・POPULATION NETWORK NEWS LETTER POPNET No.45, Winter 2014 http://www.agenta-project.eu/Jacomo/upload/media/popnet_winter_2014_final-5.pdf

・「中国網日本語版」2022年5月20日 http://www.peoplechina.com.cn/ssms/202205/t20220520_800294931.html

・フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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